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津地方裁判所 昭和36年(ワ)23号 判決

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、別紙第一記載のとおりの謝罪広告を、朝日新聞、毎日新聞及び中日新聞の各三重版に、又伊勢新聞及び夕刊新伊勢に、それぞれ二回あて掲載せよ。被告は原告に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和三六年三月八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、被告は被告を申請人とし、原告会社を被申請人とする昭和三五年四月八日付別紙第二仮処分決定書に基き、同日津地方裁判所執行吏柳田隆三をして原告会社に対し、仮処分の執行をなさしめ、同書添付第一、第二各図面記載の各土地(以下単に本件各土地と略称する。)について、右執行吏にこれが占有保管をさせた上、原告会社が右各土地に立入り、もしくはこの土地内において埋立、整地その他一切の行為をなすことを禁ずると共に右各地内に各二本づつの公示書を立札してこれが執行を了した。

二、而して、被告が右仮処分申請の理由とするところは、被告は右第一図面記載の土地の所有者であり、第二図面記載の土地の共有持分権者であるところが、原告会社は第一図面記載の土地は、訴外戸野元蔵より譲受けた同所一六八番畑一反三畝一五歩の一部なりとなすのか、または、津地方法務局備付図面記載の同所一六七番畑一畝歩にあたるものか等と称し、また第二図面記載の土地については、同様同所一七三番畑七畝歩に含まれると称して、右譲受にかかる両地を住宅地とすべく、埋立工事中であるが、本件各土地も右両地内にあるものとして将に埋立しようとして二台のブルドーザを使用し整地作業中である。よつて本件各土地の現状保全と工事禁止のため仮処分申請に及んだというのである。

三、然しもともと被告執行にかかる本件各土地は現地において、別紙第一図面記載の土地は元戸野元蔵所有にかかる大谷町一六七番田一畝八歩に相当する土地であり同第二図面記載の土地は同様同所一七三番田七畝歩地内の一部に該当するものであり、原告会社は未だかつて、被告主張の本件各土地についてこれを譲受けたこともなく、またこれに対し埋立工事をしたこともない。右は原告会社代表者個人たる須永伊之助専務取締役たる須永正臣及び伊藤松江三名が本件各土地とも他より譲受けて整地作業をなすことであり原告会社は何等無関係であるのにかかわらず、被告は右不当な仮処分を執行したものであり、原告は直ちに津地方裁判所に対し異議申立をなし、昭和三六年三月九日右仮処分決定を取消し、仮処分申請を却下する旨の判決言渡あり上訴なく確定した。そこで被告はそのころ右違法の仮処分の公示書を撤去したが、執行より十一ケ月間の長期に亘り前記四ケ所において右仮処分の執行を継続した。

四、而して、被告は原告会社が本件各土地に対し、何等埋立工事をしていないこの事実を知悉していて、故意に本件仮処分申請をなしたが、又は少くとも注意を怠り工事施行者の主体を誤り本件仮処分執行をなしたものである。即ち故意でないならば右異議申立に際し直ちに調査すべきであり、書証や人証も次々に提出されていたのであるから、工事施行者の何人であるかは判決をまつまでもなく明白であつたのであるから判決あるまで仮処分を維持したことにも過失の責を負うというべきである。

五、さて、原告会社は不動産の取引を業とするものであつて他の職業と異なり信用を高度に必要とするものであり、少しの悪評にも著しく信用を失墜するものであるところ、原告は資本金二四〇万円の株式会社とはいえ、その取引の範囲も全国に渉り広範であり、特に三重県においても知名の業者であるところ、被告の前記違法な仮処分により、恰も原告会社は他人の土地を不法に取込む悪辣な会社であるが如き印象を広く一般の社会に与える結果となり、信用を著しく失墜した。そこで原告は一旦失墜した信用は容易に回復できないので、これが回復の方法として別紙第一記載のとおりの謝罪広告文の掲載を各新聞紙になすことを求めると共に、訴外須永伊之助、同正臣、同伊藤松江より大谷町一六七番地九七坪同所一六八、一六九各番地合計五一七坪同所一七二、一七三各番地合計九〇〇坪以上総計一五一四坪のうち整地一、二〇〇坪の売却方の仲介を原告会社が依頼されていたのに、その手数料六〇万円を収得することができなくなつた外、被告の不法な仮処分によりその執行当時より二年内の間に収益が四〇万円減少した。

六、よつて原告会社は被告に対し右謝罪広告の新聞掲載を求めると共に右得べかりし利益として、損害金一〇〇万円の支払を求めると共に右損害金に対し本訴状の被告送達の翌日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

と述べ、被告の主張を否認した。

証拠(省略)

被告訴訟代理人等は主文と同旨の判決を求め、仮執行宣言付請求認容の場合には同仮執行免脱の宣言を求め、請求原因に対する答弁として、原告主張事実中一、二、の事実及び三のうち原告主張どおり本件仮処分に対する異議訴訟事件において被告敗訴になり上訴なく確定したことは認めるが、その余の原告主張事実は全部否認もしくは争うと述べ、特に本件仮処分申請並びに同執行に当り、被告において過失はないと主張し、原告会社は不動産の売買並びに仲介を業とする資本金二四〇万円の株式会社であるところ、代表取締役社長たる須長伊之助は昭和三四年中に被告方に来た際津市大谷町において宅地造成、分譲事業を始めたが、爾後交誼を願うと述べた際被告が交付をうけた名刺には原告会社取締役社長と表示してあり、又昭和三五年被告に差出された原告会社年賀状にも同様肩書が付してあり、その後昭和三五年三月ごろ、訴外加藤みち子等が大谷町一七二番、一七五番、一七六番の土地三筆を売却した時取引をなした場所は津市釜屋町の原告会社の事務所であり、又昭和三五年二月二〇日及び四月五日両日現地において須永伊之助と立会つた際一六七番、一六八番の土地二筆を買受けたのは須永等三名であると殊更に言明されたことなく、特に右四月五日の現場立会においては、原告会社代表者は被告に対し、本件仮処分の目的たる土地は訴外戸野元蔵から買受けた土地の内に含まれると主張して譲らず、かつ該土地に近接した地点まで既にブルドーザーによる埋立整地工事が進行していたのである。かかる状況の下で被告が右工事の施行主体が原告会社であると信じたのは当然のことであり、当時土地買受人が訴外須永伊之助等三名であるとしてもこれを調査するに由なく、本来迅速と隠密を確保することを要請せられる仮処分申請において、被告は何人もなす例に従つたに過ぎず、従つて被告において本件仮処分執行にあたり故意はもとより過失があつたものとなすことができないと述べた。

証拠(省略)

別紙第一

謝罪広告

津市栄町二丁目百六番地

謝罪人 山本恒一郎

私の不心得から全く無関係の名古屋市西区菊井通七丁目十三番地相互不動産株式会社代表取締役須永伊之助殿を不当に被申請人として長期に亘つて仮処分の執行を為し、全国的に営業する知名の御社の名誉と信用を棄損し且つ多大の損害をお掛け致しまして真に申訳ございません。

今后はこの様な事は決して致しません。

茲に謝罪広告を掲載致しまして深くお詫致ます。

昭和 年 月 日

相互不動産株式会社殿

別紙第二

仮処分決定

申請人 山本恒一郎

被申請人 相互不動産株式会社

主文

一、別紙第一図面、第二図面表示の土地(朱書部分)につき被申請人の占有を解いて、これを申請人が委任する執行吏に保管させる。

一、被申請人は別紙第一図面の訴外戸野元蔵所有の津市大字大谷町百六十八番畑一反三畝十五歩の西南隅(イ)点より(ロ)点に至る溝より以西山道に至る(津市大谷町百七拾番山林弐拾歩登記簿上は山林なるも現状は草生地で別紙図面朱書部分)土地に立入り若しくは此の土地内に於て埋立整地その他一切の行為をしてはならない。

一、被申請人は別紙第二図面表示の訴外戸野元蔵所有の津市大字大谷町百七十三番畑七畝歩の西北隅(イ)点より、東(ロ)点に至る線以北の土地(同所一三〇番地沼四畝十六歩)に立入り若しくは此の土地内に於て埋立整地その他一切の行為をしてはならない。

一、申請人の委任する執行吏は右各項の目的を達するため必要の措置を取らなければならない。

(昭和三五年四月八日 津地方裁判所民事部)

第一図

〈省略〉

第二図

〈省略〉

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